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​特別プログラム

 特別講演「科学と社会の信頼関係」

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横山広美先生

東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授

科学と社会の信頼関係について考える。最初に、戦後の日米の科学技術振興の歴史をたどり、どのように社会対話の重要性が指摘をされるに至ったのかを説明する。さらに信頼の構造や、失敗から科学コミュニケーションの概念が生まれたことについて紹介する。その後、SNSによって変化し続ける現代に至るまでの課題を読み解きながら、次世代の科学者が身に着ける社会との対話について考える場とする。

シンポジウム:意識や主観的体験の神経科学 〜 数理的なアプローチとの融合

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​「意識の質(クオリア)と脳活動をつなぐ数理の探求」

大泉匡史先生

東京大学 大学院総合文化研究科 准教授

我々が物を見た時、音を聞いた時に感じる、主観的な体験の質(クオリア)は、 言語化できない、定量化できないものと考えられてきた。しかしながら、ある体験に対するクオリアを単体で特徴付けようとするのではなく、他のクオリアとの関係性から特徴付けることは可能である。具体的には、「赤」は「ピンク」には 似ているが、「青」には似ていないといった関係性、類似度を定量化することは可能である。他のクオリアとの関係性を可能な限りたくさん集めてくることができれば、「赤」の質そのものを定量化していることと実質的に同じになっていくのではないか? こう考えると、定量化不可能であると考えられたクオリアを定量化する方法が実は存在することになる。本講演では、この考え方に基づいて定量化されたクオリアと脳活動とをつなぐ数理を探求する、新しい研究パラダイムを議論したい。

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「主観的知覚の多様性はなぜ生じるのか:予測符号化理論に基づく構成的理解」

長井志江先生

東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構・特任教授

知覚は主観的な体験であり、人や状況に応じて多様に変化する。例えば、発達障害者や精神疾患者では、感覚過敏や幻覚・妄想などの非定型な知覚体験が報告されている。講演者は、知覚や認知などの主観的体験の多様性が、脳の一般原理とされる予測符号化処理の変調に基づいて説明できると提案してきた。脳はベイズ推論に基づいて、ボトムアップな感覚信号と内部モデルからのトップダウンな予測信号を統合し、予測誤差を最小化するように知覚や運動を生成する。その際に、感覚信号や予測信号の精度が過大/過小となることで予測符号化処理に変調を生じ、感覚過敏/鈍麻や過学習/過汎化などの、両極的な非定型性を生じる。本講演では、神経回路モデルとロボットを用いた学習実験により、人の知覚運動における多様性を構成的に検証した研究を紹介する。

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「現象とアクセス:意識の神経基盤の包括的理解に向けて」

笹井俊太郎先生

株式会社アラヤ・研究開発統括・University of Wisconsin-Madison・名誉フェロー

圧倒的な大自然の風景を見て、それを口頭で説明するとき、多くの人は全てを説明し尽くせないと感じる。意識研究者の間ではながらく、実際に経験した全て(現象的意識)と課題へ利用可能な内容(アクセス意識)のどちらを真の意識をみなすかについて論争が続いており、それぞれに対して異なる意識の理論が提案されてきた。これに対して本講演では、意識の現象的側面とそれに対するアクセスは異なる神経メカニズムによって担われ共存していることを支持する結果を示す。また、意識という現象とそれに対するアクセスという2つのプロセスを統合し、意識を伴う認知プロセスを包括的に記述する枠組みを提案する。

 特別講演「視覚学習におけるノンレム睡眠とレム睡眠の役割」

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玉置應子先生

​理化学研究所・開拓研究本部  / 理化学研究所・脳神経科学研究センター

視覚学習では訓練後の睡眠期間が重要な役割を果たすことが示唆されている。睡眠に伴う視覚学習の向上には、少なくとも2つの異なる側面がある。技能のオフラインゲインと干渉に対する頑健さである。発表者らは、これらの2側面における、ノンレム・レム睡眠中の脳の可塑性の役割を検証した。ヒトの睡眠中の視覚野における脳の可塑性を非侵襲的に調べるため、MRスペクトロスコピーと睡眠ポリグラフの同時計測を実施しグルタミン酸(Glx)とγアミノ酪酸(GABA)の濃度を計測した。これらの比をとり、脳の興奮抑制(EI)バランス(視覚野の可塑性と相関する)を求めた。その結果、ノンレム睡眠後にはオフラインゲインがみられたが、干渉に対する頑健さにはレム睡眠が必要不可欠であった。視覚野におけるEIバランスはノンレム睡眠中に増加しレム睡眠中に低下した。ノンレム睡眠時のEIバランスはオフラインゲインと相関し、レム睡眠時のEIバランスは干渉に対する頑健さと相関した。ノンレム睡眠とレム睡眠は、視覚学習において、相反する神経化学的プロセスに基づき、相補的な役割を果たす可能性がある。

略歴:広島大学大学院にて博士号を取得し、マサチューセッツ総合病院マルチノスセンター、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、ブラウン大学、労働安全衛生総合研究所等での研究を経て、現在は、理化学研究所白眉研究チームリーダー。

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